カザフスタン:ビクトール・キスト氏
中央アジアの水資源問題(アラル海、シルダリヤなど)



田中副理事長/所長)
 最初にカザフスタンの代表のビクトール・キストさんにお話をお伺いします。キストさんは中央アジアの環境問題、特に水資源の問題に造詣が深いということで、カザフ・ウズベク国境にあるアラル海の問題や、そこに流れ込むシルダリヤに関する問題を中心にお話ししていただきます。もともとキストさんは、カラカンダのご出身で、同地の農業大学を卒業された後、地区の環境問題に長く携わっておられました。それから国会議員になられ、首都において、例えば国際生態学・生命保全科学アカデミー学長などの、環境問題や農業問題を扱う組織の長に就いてこられました。現在は、国会の副議長も務めておられます。それではお願いします。

ビクトール・キスト氏) ありがとうございます。尊敬する皆様方、今日ここでこのような形で皆様にお目にかかれる運命に恵まれたことを、大変嬉しく思っております。世界的な問題でもあるアラル海の問題について、お話しすることができると同時に、皆様にこうやって参加し聞いていただけることを感謝いたします。今日は、私が先週別のところで行った報告の中で、最も大事な部分を皆様にお伝えしようと思います。皆様の方から質問がありましたら、後ほど答えさせていただきたいと思います。

 世界の研究者の多くが述べているように、アラル海の枯渇問題は、地球の自然環境を変えた大きな原因となりました。アラル海と周辺のトゥラン低地にあるその他の塩水湖が干上がった(アラル海においては約330万ヘクタールに及ぶ)ことがもとで、地球の大気中の微粒の塩分と塵の含有量が毎年25%も増加しています。

 いまや大気中には、毎年7000万トン以上の塩分と塵が舞い上がる状況ができあがっています。アラル海沿岸のダシュオグズ州(トルクメニスタン北部)などのいくつかの地域では、この量が1ヘクタール当たり600-700キログラムに及んでいます。この塩分が何百キロメートルもの範囲にわたって滲み込み、惨事を起こしています。コンクリートの建物を地下から浸食する、というようなことも起きています。

 また、アラル海に流れ込む二つの川に水を供給している高地の氷河に、崩壊が見られます。氷河は海の影響を受けた塩分・塵の層に覆われ、そのために水のコンデンサーの役割ができなくなるおそれがあり、将来的に川の水量の大幅な減少が起こるかもしれません。

 ウズベキスタン、トルクメニスタンの2ヶ国には灌漑用水を増加させる可能性はほとんど残されていませんし、状況はタジキスタンもほぼ同様です。可能な水資源の約75%は、既に灌漑用及び工業用、公共水道等に使われています。このため、過去30-35年の間に氷河からの水資源は、33%程度縮小してしまいました。研究者は、2020-2025年までの間に氷河の縮小により、水量が約10%程度さらに減少する可能性があると伝え、大きな影響がでる可能性を予測しています。

 カザフスタンの土壌研究所の研究者達は、アラル海で生まれた塵・塩分の他に、分解することのできないその他の化学物質を含んだ塵・塩分が大量に生まれる場合のあることを指摘しています。

 アラル海=シルダリヤ水系の問題は、アラル海東湖(注)=アムダリヤ水系で起きている事態を別にしては解決しません。アラル海沿岸の自然環境の変化は、アムダリヤとシルダリヤの水力を、科学的裏付けのない計画により利用したことで起こったものです。近年、アラル海沿岸の水系と土壌においては、生物学的な生産性が極めて低くなりました。その理由は、農業用面積を増やしたために、灌漑用水を集約的に増大させてしまったことにあります。

(編集注) アラル海では、湖水の減少が進んだことにより湖の中央に半島が出現し、それによって大きく東湖(「大アラル」)と西湖(「小アラル」)に分かれる地形に変化した。その結果、アムダリヤは東湖に流れ込む形となった。

 現在のアラル海沿岸地区の環境政策は、灌漑用地の削減を中心としたものですが、アラル海沿岸地区における社会経済的・環境的問題は極めて深刻です。このことから、カザフスタン共和国政府は、1992年に「アラル海沿岸住民の社会的保護に関する法」を制定しました。

 この20年のクズルオルダ州(カザフスタン南部)における砂漠化の結果、60万ヘクタールの森が消滅し、多くの動植物も失われてしまいました。これは主として、火の不始末が原因となって起こるものです。この地域の砂漠化の結果、アラル海沿岸のキジルクーム砂漠とカラクーム砂漠の砂が、以前は耕地によって分けられていたものが、一緒になってしまいました。このために恐ろしい事態が起ころうとしています。

 環境問題の解決は、高いレベルで行うべきものであります。というのは、アラル海沿岸の環境破壊というのは、ユーラシア、ひいては地球全体の破壊に発展してしまう可能性もあるからです。アジアの気候を変え、地球の生活を崩壊させる可能性をひめています。

 しかしながら、アラル海問題の解決が進んでいないのは、水を必要とする中央アジア各国に一致した行動が見られないことによるものです。水資源の配分の点でも、紛争が起きかねません。広域的な水資源利用レジームが機能できないような、各国の利害による水資源利用が行われているのです。中央アジア全ての国の利害を考えて、紛争のない協力を行うことが必要です。そのためには、生態学的アプローチが非常に重要です。水資源の消費者たちが利害や活動を調整し、かつ、人間だけでないその他の動物も水資源の消費者として位置づける必要があると思います。そのためには、適切な経済的・法的なメカニズム、環境的な指標、および、水・土壌・農業生産物に対する監視システムを構築する必要があります。

 アラル海沿岸地域の水利用は、1992年に水資源利用関連の国連会議で採択されたヘルシンキ条約やダブリン会議等などによる他の国際協定に基づくものである必要があります。中央アジア諸国は1992年2月、国境を越える大河の利用について、紛争の起こらない方法を求めて、国際協力水力管理委員会を設立することに合意しました。この協力が実現すれば、シルダリヤ下流の水量が、年間8000万平方キロメートル以下にはなることはないはずです。水量の減少を補っていくためには、今後いくつかの方策が考えられるでしょう。灌漑用水の縮小が第一ですが、その他、排水の再利用、水の浄化や節水のための技術の利用も考えられます。

 現在カザフスタン政府は、水エネルギー資源のコンソーシアムの設立を計画しています。これが実現すれば、アムダリヤの水流について規制がかけられるということですが、現在すでにアムダリヤは、アラル海まで達しない状況になってしまっています。この規制の他にも、合理的な地下水の利用方法も考えようとしています。さらに考えられていることとしては、水資源が極端に限られた地域での水を大量に使用する施設に対する建設制限や、節水や水の汚染防止のための新しい技術の導入などです。私たちは予算も惜しみなく使って、問題を解決しようとしています。5億テンゲの予算を使用し、クズルオルダ市に浄水用の新しいステーションの建設する事業を計画中です。さらに国際機関との協力により、あらゆるプロジェクトが進行しています。主な機関としては、国連開発計画、IBRD、ユネスコ、ユニセフ、USAIDや、カナダ・クウェート・トルコ各国の機関等があります。日本からも、ある事業に関して協力していただいています。1997年春、JICAが、資金提供を行ってアラル海の問題の研究に取り組む用意があると表明しました。このプロジェクトの活動として、1998年1月から2000年3月まで、アエロアサヒコーポレーションにより航空写真を使った調査が行われました。こうして得られたアラル海とシルダリヤのデジタルデータが、カザフスタン政府に提供されました。また、クズルオルダ州の議会は、在カザフの日本大使館、ならびに丸紅との協力により、現在、医療施設の設備の充実やアラル海の水供給の回復・改善に関するプロジェクトを行っています。

 アラル海沿岸地域の問題解決のために、カザフスタン政府は国連との協力を重視しています。2003年に国連のコフィ・アナン事務総長がカザフスタンを訪問したおりに、ナザルバエフ大統領は国連に対し、国際アラル海救済基金に国連事業のステイタスを与えられないだろうかという提案を行っています。今、私たちは、北アラル海や「小アラル」(西湖)と「大アラル」(東湖)の中間に水管理のための施設を建設しようとしていますが、そうした事業もアラル海の自然環境を守るという使命に反するものではないと考えています。

 中央アジア諸国がこの問題で協力していくために、国際アラル海救済基金や国際アラル海問題協議会が設立されています。また、カザフスタン政府は、綿密な科学的調査を踏まえ「アラル海保護とアラル海沿岸環境復興」2006年プロジェクトを作成しています。さらにそれに加え、2004-2006年に対する「アラル海沿岸問題解決プログラム」、そして2005-2015年にかけての「カザフスタン砂漠化防止プログラム」も策定しています。

 シルダリヤはキルギスタン領土を通り、ウズベキスタン・タジキスタンを越え、それからようやくカザフスタンに入るわけで、下流であるカザフスタンでは既に質が悪化しています。アムダリヤとシルダリヤの水量調節が難しいのは、両河が国家間に流れているということからくる国家間の問題があるからなのです。この問題についてカザフスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタンの下流三国は、政治的に解決する方向で努力しようとしています。一方、キルギスタンとタジキスタンは水量の必要量の拡大を計画しており、中央アジア間での水量分配メカニズムの見直しを提案しています。ここで問題なのは、将来の水量需要量の評価が一つに統一されないということです。

 アラル海沿岸の水確保と配分の問題は、現在、国家間の政治カードとして上流の国々によって使われています。1992年の承認に基づき、中央アジア諸国は国家間共同水量管理委員会を通じて国家間の取り決めに忠誠を表現し、実施に対する責任を唱えてはいますが、現在のところ、望ましい結果がまだ出ていません。二国間・多国間契約による貯水池の管理というような、カザフスタン共和国の努力もまた、まだ実を結ばず、水の配分や水資源の確保の問題はまだ機能しているとは言えません。

 アラル海の砂漠化や地盤沈下の抑制の問題も大きな課題です。この問題に対し、2004-2006年の間、1億2899万5千ドルが資金として予定されており、アラル海全体の問題解決に、3億3430万2680ドルの国家予算をかける計画です。2004年には、クズルオルダ州の発展と環境バランスのためのプログラムがスタートしました。これによれば、農業、技術の様々な分野において回復が行われ、インフラの整備も行われる予定です。水道施設や病院等の近代化も、解決されていくことになっています。

 原料型ではない輸入代替、輸出志向の経済セクターを作り、それが環境に配慮したものであり、この地域の安定化に貢献することができるということが、このプログラムが狙っているところです。

 これで私の報告を終わらせていただきますが、この報告を通じてアラル海問題という複雑な問題を皆様にご理解していただくことができれば幸いです。